最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2276号 判決 1950年11月28日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人和島岩吉の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。
第一点。
原判決挙示の証拠により判示事実を認めることができるばかりでなく証人前川の供述(原判決に証人前川六郎の当法廷における供述記載とあるは供述の誤記と認める)を証拠にしたことについて何等経験則に反するところはない。論旨は独自の見解にすぎないから採用できない。
第二点。
所謂自然犯たると行政犯たるとを問わず、犯意の成立に違法の認識を必要としないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第二〇二号同年七月一四日大法廷判決参照)。従って被告人が所論のように判示進駐軍物資を運搬所持することが法律上許された行為であると誤信したとしてもそのような事情は未だ犯意を阻却する事由とはなしがたい。原判決の認定したところによれば、被告人は判示物件を進駐軍物資と知りながら運搬所持したというのであるから本犯罪の成立をさまたげるものではない。論旨は原判決は被告人は進駐軍物資を運搬することは許されないものであることの認識があったことの証拠を示さない違法があると主張するのであるが、所謂行政犯たる本件犯罪の成立に違法の認識を要しないこと前述の通りであるから所論のような証拠を示す必要はない。従って論旨は理由がない。
よって旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)